少し前に、木製建具のデザインに取り組んでいる、という記事を書きましたが、その時に読者の方から
「家に対して、どのように建具のデザインを作り出していくのかの、建築士の思考の過程を垣間見れると、嬉しいです」
というコメントを頂いたので、今日はそれにお答えして少し障子のデザインを考える際の過程についてお話してみたいと思います。
1. まず最初に、大まかなデザインの方針を決定します。
木造であっても、室内全体が民家風の骨太な感じでまとめるのか
数奇屋のような繊細で華やかな感じでまとめるのか
または現代っぽく、さらりとした感じでまとめるのか。
これは建具で調整するというよりも、建物に合わせて方針を採択する
という感じですね。
2. 次に色と樹種を決めます。
色を塗るのか塗らないのか、
木目がはっきり出る樹種が良いのか、あまり出ない樹種が良いのか、
コストは?重さは?
というようなことから、建物に使われている材料との相性・バランスも考えて
樹種と色を決定します。
3. そしてようやく大まかな建具の形を決めます。
1の方針に沿って、ある程度のイメージを固めたら、障子の場合は
腰板を設けるのか
→ 腰板を設けるのなら、どんな材料で、どの方向に木目を向けるのか
→ 腰板は1枚板か、数枚をはぎ合わせるのか
→ 腰板の高さはどのくらいにするのか(写真:b)
それとも上から下まで格子のみでいくのか
という大枠を決めます。
4. そこからようやく、格子の割付です。
縦横、それぞれ何マスで割り付けるのか(下写真a)
マスは縦長にするのか、横長にするのか、それとも正方形にするのか
ここまではおよそ想像がつくと思うのですが、難しいのはここから先です。
5. 次に各部材の木割りを考えます。この木割りというのは出来上がってしまうとわからないように思われがちですが、プロポーションを考える4の工程以上に空間全体の雰囲気を大きく左右してしまう、デリケートな作業です。
建具の設計においては、ここが一番の勘所と言えるでしょう。
1の方針に沿って、縦框(写真c)の寸法を決めます。
同様に、1の方針に沿って上桟(写真d)・下桟(写真d)の寸法を決め、それに合わせて中桟(写真e)の寸法を決めます。
縦框・上下中桟の寸法が決まったら、その雰囲気を壊さないように組子の太さ(写真f)を決めます。
この木割りの過程では僕は何度も原寸図を描いて、実際のプロポーションを実物大で確認しながら、何度も調整を行います。
6. 全体の木割ができたら最後に引き手の大きさを選んで決めます。
とまぁ、だいたいこんな感じで一つ一つ決めていくのですが、順番に一つずつデザインを考えていくうちに
「やっぱりあそこはこんな感じのほうがいいなぁ」
などと考えを改めることはしょっちゅうなので、そのたびに描き直し・・・なんて具合で3歩進んで2歩下がる、とゆっくり進みます。
建具は実はとっても難しいんですよね。
(株)木造建築東風のサイトはこちら
世界に、300年先も美しい風景を
ありがとうございました。
素人の私にも、プロの頭の中を少しだけでも垣間見させて頂いた気がします。
設えられた建具に、「美しい、ステキだな」と感じた裏側には、
建築士さんの大変な御苦労があるのですね。もっと感謝しなければいけませんね。
「この木割りの過程では僕は何度も原寸図を描いて、実際のプロポーションを実物大で確認しながら、何度も調整を行います。」
頭の中だけでは解答が得られない難しさ。この試行錯誤があってこそなのですね。
時間や季節による光の射しこみ方の違い、陰影のバランス、隣の部屋の気配の感じ方、などなど。カーテンや板戸とは違った、日本の木製建具の素晴らしさ。
最近は、障子の無い家も、多いのでしょうね。
私は、やっぱり、日本人で良かったなと、改めて思いました。
また、いろいろな記事、楽しみにしております。
原さん、コメントありがとうございました。
> 最近は、障子の無い家も、多いのでしょうね。
そうですね、障子のない家の方が多いです。
うちで設計する物件でも、障子が入る家は3軒に1軒くらいでしょうか。
> 私は、やっぱり、日本人で良かったなと、改めて思いました。
僕も障子は大好きです。
自分の家をつくるときには、必ず和室と障子を作ると決めています。
(決めているというよりも、それしか考えられないという方が当たっているかも)
障子はカーテンよりも隙間風対策としては有効で、断熱性能もある素晴らしい素材なんですけどね。
なぜかみなさんカーテンを好まれます。
おそらく和の『イメージ』が強すぎるためでしょうね。
決してそんなことはないんですが