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木割(きわり)とデザイン

今回の記事はちょっと専門家向けなので、一般の方にはちょっと難しいかもしれません(すみません)。

木割(きわり)という言葉があります。

元々は、お寺などを建てる際に、タルキの断面寸法から、全ての部材寸法・割付寸法、柱間、高さなどを一定の割合に基づいて決めていくセオリーのことを言います。
(↑と、僕は理解しています)

建築のデザイン(特に木造では)を決定する際には、この木割という考え方がとても重要なのですが、これを他人に伝えるのは非常~~にムズカシイ・・・。

例えば住宅建築においては、民家風にする場合には木柄(きがら:各部材の断面寸法)を大きくして面取の巾を小さくします。
そうすると、カチッ!ガシッ!とした感じで重量感・安定感が出ます。

逆に、瀟洒な雰囲気が求められる数奇屋などでは木柄を少し小さくして、面の巾も少し大きくします。
すると、線がやさしい感じになり、華やかさ・柔らかさが出てきます。

そこまでは単純です。
しかしその一歩先の、しっかりした安定感を出しながら瀟洒な雰囲気を出す領域になると、そんな簡単な訳にはいきません。

さらには、材料の選択(杉にするか?桧にするか?松にするか?)、杢の選択(節の有無、柾目、追い柾、板目、中板目、等々・・・)によっても空間の質は変わってしまいます。

これを理解するためには、実物を見たり、実際に自分で実測したりすることで、何度も場数を踏んで自分自身の感覚を養っていくしかないのですが、そこには個人的な好みのばらつきを超越する、はっきりと収束するエリア(1点ではありません。エリアです)が必ずあります。

それって単なる好みの問題じゃないの?と言われそうですが、そうではありません。
なぜそう言い切れるのか?というと、多くの人がそこに美を感じ、共通して高く評価するものがあるからです。

だからそこにはきちんと裏打ちされたセオリーがあるのです。
実は木造建築のデザインというものは、この木割というセオリーに深く深く依存しています。

写真で観ると美しい建築だったのに、実際に現場に行ってみたらがっかりした、という経験をしたことはありませんか?
こういうケースでは木割がきちんとできていません。
(↑これは木造に限りません。RC造やS造でも同じです)

逆に、見た目には特に何の変哲も無い感じなのに、なんだか空間にスゴイ緊張感があって、とても雰囲気がいいという場合、木割にとても細やかな心配りがなされています。

でもそれを説明してくれ、と言われても説明できない。
(というか、説明してもきっと理解できないと思います)
なぜか?
わからない人にはデザインのセンスがないからだというわけでもありません。
それがわからない人には知識と経験が足りないからなのです。

木割を理解・習得するためには、一流の古典建築をひたすらたくさん見て、自分の手で実測して少しずつ少しずつ、時間をかけて寸法感覚と理論、材料に対する感覚を養っていくより他に方法がありません。
書物で勉強すればできるようになる、教えてもらえればできるようになる、というようなシロモノではないのです。
理論と経験が相まって身についていく類の能力です。
単なる美的センスだけの問題でもありません。
(↑もちろん、美的センスは必要ですが)

それともう一つ。
設計作業の中でCADを使うことは、この木割のセンスを身につける際の最大の敵だと言ってもいいと思います。

確かにCADはとても優れた設計ツールです。
しかし、感覚を養うという面では、圧倒的に不利です。
だから僕は今でも、迷った時には必ず原寸図を手書きで起こして検討します。
こういう考え方は時代に合っていないのでしょうが、そうやっていくことでしか伝えられないものがあるという事実に、いつも迷い、考えさせられます。

でも、実は考える必要なんてあまりなくて、単純に手書きで全ての図面を起こしていけばいいだけの話なんでしょうけどね、きっと(笑)。
一度は手放したA0版製図台を、近々もう一度事務所に招きいれようかなぁと考える今日この頃です。

なんだか今回はえらそうなことを書いてしまいましたが、こういうことを言う人がなかなかいないので、誰かが言わないといけないんじゃないかと思い、文章にしてみました。

僕は木割を全て理解している、というつもりで書いているわけではありません。
ただ、こういう理論が建築デザインの根底にある、そしてそれは表立って学校で教えてくれたりはしないけれど、デザインにおいてはもっとも重要な要素のひとつなんだということをお伝えしたかったのです。

 

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【民家】を通じて日本の歴史が見えるようになる

住まいを4寸で

最近読んだ本の紹介です。
『住まいを四寸角で考える』 安藤邦廣 著

本のタイトルを一見すると、著者による設計技術論的な内容か?とイメージしがちですが、そのような内容はごく一部に過ぎません。
むしろ、これからの地球環境を「民家」という視点から紐解いて考える緒となる重要な知恵を授けてくれる本だと、僕は強く感じました。

この本には、日本の豊かな森林資源に根ざしたこれまでの住文化の歴史の変遷が、俯瞰した視点からまとめられていて、とても深い示唆に富んでいます。
そのことを著者はわかりやすいエピソードで紹介して下さっていますので、ここで少しご紹介します。

○ 古来(~15世紀)戦災が多かった西日本では森林資源が枯渇したため、土壁の民家や焼き物の器に代表される土の文化が発展したのに対し、
東日本では戦災が比較的少なかったため、豊かな森林資源に支えられて板壁の民家と木地の塗り器が一般的であったという話。

○ 実は食物として、樹木は優れた建築用材として縄文以来長年にわたって用いられてきた栗の木が、明治以降の鉄道施設によって枕木として大量に伐採されたために日本の住文化の表舞台から姿を消してしまった話など。

こうした歴史的な俯瞰に基づいて、著者は

「都市部への民家の移築再生を安易に進めてはいけない」

という警鐘も鳴らしています。
それはこれまでに長年かけて培われてきた、地域固有の文化の消滅を助長すると同時に、地方経済のこれからの永続的な発展にも決して寄与しないという観点からです。

僕もこの本に触れてから、民家の変遷を日本の歴史と並列して捉えられるようになり、おかげで民家再生という行為を今までより一段高い視点から俯瞰できるようになった気がします。
オススメの一冊です。

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