先日、クライアントのN様(京都市) より大変嬉しい申し入れがありました。
投稿者「mokuzo_architect」のアーカイブ
高齢の天然木に相対する時
上の写真は、昨日うちのスタッフが奈良の現場から持ち帰ってきた桧の切れ端です。
写真は3枚の板を並べ合わせて撮影していますが、それぞれの板巾は180mmあって、白太がほとんど入っていない赤身の板です。
これ、実は植林された桧ではなく、高齢(150-200年)の天然木(実生の木:みしょうのき)です。
節はありますが、色・艶・木目など天然木ならではの素晴らしい味が出ています。
これは奈良市で工事中のO様邸で使っている材料なのですが、この木はO様のお義父様(林業家)が伐採され、倉庫でゆっくりゆっくり自然乾燥させた板を加工したものです。
さすが天然木だけあってすごい芳香です。
昨日この3枚だけ持って帰ってきてから、いつも杉の香りが幅を利かせている東風の事務所の中を、桧の香りが席巻(?)しています。
こういう木に相対すると、まず心の中に生じてくるのは畏敬の念です。
この木が生まれたのは19世紀の初頭。
枝の先からポトリと地に落ちた桧の実が発芽し、探しても探しても見つけられないような、小さな小さな芽を出します。
自分よりもずっと背丈の高い下草に日光を遮られ、劣悪な生育環境で駆逐されそうになりながらも必死で生きる実生の木は、数年経ってもなかなか大きくなれません。
その様子は伐採した後に年輪の中心部をみるとよく判ります。
下の写真は静岡で樹齢約120年の実生の杉の木を伐採した直後に撮ったものですが(2009年)、樹芯付近の年輪同士ががとても緻密に近接し、なかなか大きく育てなかった様子がよくお判りいただけると思います。
(ぜひ画像を拡大してご確認下さい)
このような来し方の木を伐採・製材し、建築用材として使わせていただくというのは、大変畏れ多いことです。
自然の力、木の生命力、人間の一生では及ばない時間の流れなどに思いを馳せるともう言葉になりませんが、用材として使わせていただく際には後世にわたって愛され、できるだけ長く使って頂けるようにと考えて大切に扱うのが我々の使命です。
自活できる家
今回の震災では、茨城県に住むうちの両親も断水・ガス停止などの影響を受けました。
(幸い、電気・インターネット回線はずっと使えていましたので、電子メールでのやりとりが一気に増えました)
おかげさまで家も家族も無事なのですが、断水になって困るのは、やはり手洗・洗濯・トイレ・入浴などです。
お風呂に残り湯があったおかげで今回トイレは何とかなりましたが、神戸の震災の時もみなさん同じ苦労をされていたことを思い出します。
両親の家の周辺でも、携帯用の水のタンクなどが売り切れて入手不可能になり、関西から宅急便で送ろうとしても、茨城県へ向かう宅急便は受付けてもらえないという状況でした。
ただ、昨日からは水も使えるようになって、ありがたい限りです。
今回、うちの実家の近くに井戸水を使われているお宅があったおかげで、断水中には水を分けて頂いたりお風呂に入れて頂くことができました。
ご良心に深く感謝しております。
こういう有事の際に、太陽光発電設備や井戸水など供給に頼らない自活できる資源を自宅に持っているということは、とても大切なことだなと改めて感じました。
雨水タンクなども、手軽に始められますが、非常時のトイレ排水用水として備えておくことはとても有用ですよね
今回の震災を契機に、住宅の考え方も今までとは少し違った価値観へとシフトしていくかもしれないなと思う一方で、阪神・淡路の震災にも同じことがあったと思うのですが、さほど大きな流れにはなりませんでした。
今後みなさまの家づくりに関らせて頂く中で、有事への備えについても常に注意喚起をしていく役割を、専門家である自分たちが務めなくてはいけないと感じています。
被災地の皆様へ
このたびの震災情報を見聞きするたびに、あまりの惨状に言葉になりません。
まずは被災地の皆様のご無事と、犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
阪神・淡路の震災の時もそうでしたが、本当に必要な方への情報網を妨げないためにも、電話は極力控え連絡は可能な限りメールにしています。
震災直後から、電話は通じなくとも携帯メールもe-mailも通じています。
Googleさんが提供している、こういうページもありがたいですね。
本当は現地に入って微力ながらも何らかのお力添えをしたいところですが、むやみに現地へ向かうことは、救援物資の遅延や交通の混乱を招く一因となるため、今自分の居る場所でできる支援は何なのか?ということを一生懸命考えています。
僕が副代表を務めている、日本民家再生協会でも、被災地支援のために何かできることはないか?ということを、事務局長と相談しながら検討しているところです。
募金を募って義援金を送ることや、被災地での建物診断による危険/安心判定の実施は今後行われることになると思いますが、それ以外にも何かお役に立てないかということを模索しています。
阪神大震災を経験していない息子には、今テレビで放映されている惨状をきちんと見て、地震や津波が起こった際にはどういうことになるのか覚えておけ、と伝えました。
建築の世界では、今回のような地震は、数百年に一度の頻度で起こる極めて稀な地震と位置づけられていますが、このような震災がここ十数年で日本国内だけでも何度も起こっているということは、今後我々がより安全な未来を築くための試練という側面もあるのではないかと受け止めています。
寒い中、水も電気も使えずに、必死に復興に臨む被災地の皆様、どうかご無事でおられる事をお祈りしております。
みんなで力をあわせて、一日も早く被災地の皆様に平穏な生活が戻るように復興しましょう!
大阪の診療所 改修計画中
大工のセンス
今日、奈良市・O様邸の現場で打合せがありました。
O様が来られるまでに現場の各所を見ていると、
「おっ♪」
と思うような仕事がありました。
一目見ても気付かないと思うのですが、上の写真の木は2つの異なる木を継いでいます。
上半分は構造上の柱ですが、下半分は化粧の枠(戸当たり方立て)です。
大工さんが木目の合いそうな木を探してきて継いでくれました。
こういうの、ほとんどの人は気付かずに見過ごしてしまいそうですが、とてもうれしい心遣いですね。
この現場の木工事をお願いしている大工の藪中さんは、奈良県吉野在住のベテランの大工さんですが、大変気が細やかで仕事も美しく、素晴らしい職人さんです。
薮中さん、今後ともどうぞよろしくお願いします。
上棟とおかめ
上棟の際に作る、御幣(ごへい)というお札のようなものがあります。
長さは1.5m位の細長い板のようなものですが、それにはおかめの面をつける地域があります。
これはもともと京都で始まった風習だと思いますが、今解体工事行っている神戸の現場でも、このおかめの面が付いた御幣が小屋裏から出てきました。
おかめは鎌倉時代に千本釈迦堂(京都市・国宝)を建てた棟梁の奥様だった人で、下記のような云われが残っています。
大事な柱の寸法を間違い短く切ってしまいました。
そのことを知った妻のおかめ(阿亀)が枡組を使うようにアドバイスし
高次は無事に本堂建築の大任を果たすことができました。
れてはいけないと、本堂の上棟式を待たずに自害してしまいました。
高次は上棟の日、妻おかめの冥福とお堂の無事を祈っておかめの面を
御幣につけて飾ったと言われています。
を弔うために、大報恩寺の境内に宝篋印塔(おかめ塚)を建てました。
この言い伝えから、大工の信仰を集め今日でも上棟式にはお多福の面を
付けた御幣が飾られるようになりました。
(以上、こちらのサイトより転記)
この千本釈迦堂(←これは通称。正確には、大報恩寺という)は、ゆるい勾配の杮葺きの屋根が優美な、大変美しいお堂です。
興味のある方は行ってみてください。
観光客も少なくて、なかなかいいですよ。
(建物は大変美しいのですが、庭などはあまり期待しないように)
神戸で建物を解体していておかめが出るとは思っていなかったので、ちょっとビックリしました。
京都以外の地域でも、御幣には普通におかめの面をつけるのかな?
どなたかご存知でしたらおしえてください。
「うちの地域でも付けてるよ」
「この辺じゃああまり聞かないなぁ」
とか教えてもらえると嬉しく思います。
アメリカの郊外住宅
僕の高校時代の親友がアメリカで歯科医として活躍しているのですが、彼が今、家を建てているとメールで知らせてくれました。
彼が建てている場所はペンシルバニア州内の郊外です。
他にも何点か写真を送ってくれたのですが、構造は2×4の木造でした。
上の写真はダイニングとなる部屋から外の景色を見た時の写真だそうです。
この場所はもともとクリスマスツリー用のモミの木を育てる畑だったそうですから、目の前に広がっている針葉樹もおそらくモミの木でしょう。
(写真ではちょっとわかりにくいですが・・・)
僕も以前工務店に勤務していた時にアメリカ国内(しかもたまたま同じペンシルバニア州内)で現場をやっていた時に、郊外に住まわれている現地邦人の方のお宅へ招かれてお邪魔したことがあるのですが、そのお宅でもこのように雄大な森林が目の前に広がっていました。
もちろん、所得はそれなりに高い方のお宅だったのですが、
「どこまでがお宅の敷地で、どこからがお隣の敷地なんですか?」
と尋ねたところ、
「敷地境界なんてどこかわからない(=見えない)よ」
と言われたのを聞いてビックリしたのを強く覚えています。
その後そのお宅の総工費を聞いて、日本の相場と比べてかなり安かったのにはさらに驚きました。
「アメリカの住宅事情はなんて恵まれているんだろう・・・」
とビックリしたものです。
というか、日本の住宅が高すぎるのかもしれませんね。
僕は海外で定住したことがないので、他国の事情と比べて日本の住宅価格がどれほど高いのか(はたまた安いのか)はよくわかりませんが、でも眼前にこんな風景が広がっている土地で暮らせるのはとても豊かなことだなぁと親友をうらやましく思います。
彼も現在進行中のこの家づくりを大変楽しんでいるようです。
この家が出来上がったら、いつか遊びに行ってみたいなぁ。
僕も最近は、眼前にきれいな海が広がる古民家を探して、自分で手を入れて移住したいなぁと夢見ているのですが、実現するのはいつになることやら・・・。
日本の場合は、土地や不動産物件との出会いというのは縁とかタイミングみたいなところが多分にありますから、うちのクライアントのみなさまも苦労されているのはやはり土地探しのようです。
予算内で気に入った土地がなかなか見つからず苦労している・・・という方は多いですね。
僕みたいに自営業の身だと、勤務先の制約がないから
「田舎の方へ引っ越しちゃおうかな~」
なんて割と気軽に(しかも割と本気で)考えられたりするのですが、お勤めの方はそういうわけにはいかないですよね。
でも仕事も含めて、住環境を思い切って変えるというのは、やってみるとさほどとんでもないことでもなくて、本人の意識一つで決まると僕は思うのですが、どうですか?
(↑こんなことを書くと、おまえはそういう仕事をしているから言えるんだ!などとお叱りを受けそうですが)
現在土地探しをされているみなさま、がんばってください。
「良い土地が見つかったんだけど、買おうかどうしようか・・・」
と迷われている方は、最終決断をされる前に、ぜひお近くの工務店や建築家に相談して下さいね。
買ってから
「えっ!この土地ってこういう建物建てられないの?」
とか、
「ちょっと道路が狭いからって、そんなに建築費用がかさむなんて思ってもみなかった・・・。」
と後悔することになっては困りますからね。
解体工事が進んでいます
またまた更新が滞ってしまいました。
ネタは溜まる一方なので、順次アップしていきます。
2月下旬に着工した神戸市内のI様邸では、解体工事が着々と進んでいます。
ここ数日の雨は、ホコリの舞う解体工事には好都合です。
現場の職人さんは雨合羽での作業になり、濡れると寒いし合羽の中は暑いし・・・というのが申訳ないのですが、近隣の皆様のためにはほこりが立たず、助かっています。
今は重機が庭の中央に鎮座し、少しずつ壊しながら奥へと進んでいってます。
写真手前側の外壁が残っている建物は築40年の座敷と玄関ですが、ここは既存棟としてそのまま利用するため、仮囲いをして養生済みです。
4月中旬の上棟に向け、少しずつ準備を進めているところです。
外壁保存
今週から神戸市で I 様邸改修工事が始まったので、毎朝神戸へ行っています。
阪神高速神戸線を京橋ICで降りて現場へ行き、帰りも京橋から西宮まで乗ってくるのですが、その京橋の乗り口の手前、メリケンパーク入口の交差点に信号待ちで停まると、いつも見てしまう建物がこれです。
神戸や横浜にお住まいの方にとっては、この手の建物はすっかりお馴染みかもしれませんが、見慣れない方にとっては
「なんだこれ?」
という方もいらっしゃるでしょうね 。
写真中央の高層ビルですが、よく見ると高層部分がガラス張りの現代的な建物なのに、低層部分は明治~大正時代のようなレトロな外観です。
明治期に一気に近代化の波が押し寄せた港町には、西洋風(?)の洋式建築が多く建てられましたが、それらが昭和の後期から平成の初期にかけて老朽化し、
「保存か?それとも建て替えか?」
という議論がなされました。
その結果、 中庸案とも言える【外壁保存】という手法が生まれました。
このように低層階のみ洋式建築の外壁だけを残したまま、構造的には新しい高層建築を新築する、というのがその外壁保存の考え方です。
外壁保存では、
「建物のすぐ目の前を歩く歩行者の目には低層階しか見えない
=今までの街の景観を維持するために、低層階のみ外壁を残す。
しかし、低層階のみでは建物の容積が足りないので、建物を高層化し
高層部分は現代的なガラスを多用した建築とする」
という考え方に基づいています。
僕も学生時代(かれこれ17-8年前)に、ゼミの在籍生を真っ二つに分け、外壁保存は是か非か?というようなディベートを課題としてやった覚えがあります。
神戸市内を走っていると、本当にこの外壁保存の建物が多いんですよね。
外壁保存でも、京都の新風館のように上部に高層階を継ぎ足さないものであれば大変結構なんですが、どうしてもこのような組み合わせは違和感を覚えます・・・。
(あれ、新風館は外壁保存だったかな? もしかしたらちょっと違うかも・・・。)
かといって、決して批判しているわけではないんですよ。
今日お伝えしたかったのは、そういう考え方で作られている建物もあるんですよ、っていうことです。
建築って難しいんですよ。
世の中にあるほとんどの建築は、私有財産としてつくるものなのですが、それが街の景観を構成するものになってしまうために、建築の外観には社会性が求められます。
学生の時に先生に言われました。
「だから美しくない建築を作るのは罪なんだ」
と。
やればやるほど、建築というのは面白い世界です。
【お知らせ】
今週末の2/27(日)に、奈良市と四条畷市で2つの現場が一度に見られる、欲張りな見学会を開催します。
奈良の現場では、吹抜けにこんな赤松のきれいな丸太梁も架かっています。
大工さんが手できれいに刻んでくれました。
どうぞお楽しみに。
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